隣の子ども部屋から兄弟げんかの声が聞こえる。
「大人げない」と、女房が17歳の長男タクを説教する。
6歳年下の次男カズが、部屋の片付けを怠ったのが原因らしい。
驚いたのは、タクが女房に口答えしたことだった。我が家ではとても珍しい光景だ。
兄弟の問題に口を挟まないで欲しいと言う。女房の戸惑いが手に取るように分かる。
私も高校1年ごろまで、つまらないことで2歳年上の兄貴とよくけんかをした。
兄貴がいなかったらどんなに良かっただろう、と何度も思った。
理屈はともかく、最後は力がある方が勝つのが兄弟げんか。
しょせん、勝てる相手ではなかった。
兄弟の関係が劇的に変化したのは、兄貴が高校を卒業し、就職してからだった。
パチンコで勝ったといっては小遣いをくれ、自慢げにオンボロ自動車に乗せてくれた。
学生時代、初めて彼女を故郷に連れ帰った時にも、両親ではなく、最初に兄貴に紹介した。
夏の野辺山へ連れて行ってもらい、3人で一緒にソフトクリームを食べた。あれはうまかった。
工業高校を出た兄貴に大学への進学話があったことは、ずいぶん後になってから母に聞いた。
「俺はお前ほど勉強が得意じゃなかったから」と兄貴は笑ったが、貧乏だった我が家に二人も大学へ行かせる余裕が無かったことは明らかだった。
兄弟の、本当の重みを知ったのは、10年前に親父を亡くしてからだ。
タクやカズもいつか分かる時が来る。
BYニック