散髪

ウチは実に安上がりな家族である。
私が仕事で海外赴任中は、いっさい一時帰国しない。
日本でしか手に入らないものは、食べない。
自家用車は、持たない。
そして、散髪は、母ちゃんがする。
ところが最近、この原則が破られつつある。
日本で暮らす長女ユカ(20歳)の大学入学式への出席と健康診断を兼ねて、母ちゃんが一時帰国する。
田舎のじいちゃん、ばあちゃんに頼んでおいしい日本のお菓子を送ってもらうようになった。
そして、しゃれっ気の出た長男タク(17歳)に続いて、次男カズ(11歳)がウィーンで初めて床屋へ行った。
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でも、これは私が無理矢理連れて行った。
あまりにも髪が伸びすぎたので、一度くらいプロの手で整えてあげたかったからだ。
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もちろん、母ちゃんの腕が悪いからではない。
「オレ、お母さんでいいから」
カズは母ちゃんの心中を察し、頑なに美容院行きを拒む。
「その心がけに免じて、今度だけはプロの腕前を味わってこい」
というわけで、私の行きつけの店(私だけは安上がりではないのだ!)へ連れて行った。
待つこと30分。
少し前髪が長い気もするが、ヒッピーのようだったカズが生まれ変わった。
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子供料金で25ユーロ。
洗髪してもらって、隣の大人のお客さんより時間をかけて丁寧にカットしてもらってこの値段。
それほど高くない。
「どうだ、プロに散髪してもらった気分は?」
「頭洗ってもらってチョー気持ち良かった。やっぱ上手だよね」
母ちゃんには言うなよ。正直なその気持ち。
BYニック
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